2005年10月26日

随筆(10月の妊娠、6月の出産)

2005年10月26日
久々にトピックスを更新させていただきました


 今から十数年前、私が研修医期間を終え、とある田舎の総合病院へ産婦人科医として赴任した時の事、6月の出産がとても少ない事に気づきました。当時の上司の産婦人科部長曰く「田植えの時期に出産する人は少ないよ」とのこと。しかしながらこの傾向は田舎の病院だけに限らず、その後、田植えの無い都会の病院に勤務していても同じ感覚を覚え、日本人は農耕民族なんだと妙に納得した事を覚えています。不妊治療の現場から言えば、6月の出産と言えば9月を最終月経として10月に妊娠反応を見る事、即ち、10月は1年の中で最も妊娠の成立しがたい時期と言えます。これを農耕民族の立場から言えば、「稲刈りが忙しくて子作りをする時間が無い季節」と称されています。
「天高く馬肥ゆる秋」は、すがすがしい秋の代名詞として用いられる言葉ですが、元は中国北西部の農民の諺で、秋になると馬に乗って農作物を略奪にくる蒙古人を恐れ、夏の間放牧していた馬が草を食べて肥ってくる秋に、蒙古の襲来に対する警戒心を呼び起こすために農民たちが引用していた諺で、まさに危機迫る季節の代名詞なのです。この不妊治療にとって最も困難な10月を乗り越え、無事妊娠成立した患者様は本当にご苦労様でした。また、うまく行かなかった患者様は、「日本人は元来農耕民族なんだから仕方が無い」と、少しだけ慰めを入れさせてください。

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